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くちびるにはなうた

2006年4月〜求人誌「週間FREE」誌上で連載中

毒も花もある日々のうた

これまでしてきた仕事や、今の仕事やくらしについて書いています

2006年7月7日

くちびるにはなうたーvol.13 「おことのひと」

「間で合わせるのは慣れていますから。」と彼女はきっぱりと言いました。ゆったりした曲で、キーボードとぴたっと合わせて音を出して欲しいという要求に対する答えでした。テンポや合図がなくても、一緒に演奏する者同士が呼吸を合わせて音を出す。音楽を演奏する上では当たり前のことだけれど、彼女には「間」や「呼吸」を、「音」と同じくらいかそれ以上に大切に扱っている様子があります。7月に一緒に演奏することになったお箏の木田敦子さんとは、インターネットで知り合いました。お箏奏者のページを探し、直感で連絡を取ったのです。初めてのリハーサルで私が古典邦楽について何も知らないことを話すと、彼女は江戸時代の歌を歌ってくれました。箏を弾きながら源氏物語の一節を歌ったものだそうです。言葉が古語の上に、単語一つ歌うのにとても長い節がついているので、聞き取れません。昔の日本はこんなにゆっくりと時間が流れていたのかな、と歌を聞きながら想像しました。明治時代の曲は「新曲」と呼ばれるという古典邦楽の世界に、彼女は静かな物腰で私を連れて行ってくれたのでした。音楽が、私の人生に出会いや旅をもたらしてくれる幸せを、深く感じている初夏です。

♪「七夕」

お芋の葉っぱにあつまる
ころころとした朝露を
あつめて墨をすりまして
短冊に願いを書きましょう

知ってはいるのにできません
今年もペンで書きました
来年こそはと誓いつつ
はや何年経つのやら

2006年 7月15日

くちびるにはなうたーvol.14 「おとこ」

映画「間宮兄弟」を観てきました。仲良く遊び続ける兄弟の話、とてもおもしろかったです。そういえば小さい頃、男の子と遊ぶのが大好きでした。自由な遊びがいろいろあって、陰口をたたいたりせず、はっきりものを言うところが好きでした。今、一緒に音楽をつくったり演奏したりするのはほとんどが男の人です。私がバンドに必要としているドラム、ベース、ギター、の演奏者は驚くほど男の人が多いのです。でも最近、仕事やプライベートの話し相手に、女性の細やかな思考や優しさをとても必要としていると感じています。ワールドカップの結末を見て、男は争う本能をもっているとしみじみ悲しんでしまいました。全ての男がそうだなんて言えませんし、社会を支えている男のエネルギーも闘争本能と無関係とは言えません。それでも、女性は争いを起こそうとする男性をくい止めなくてはいけないと、切に感じています。世界のあちこちに様々な形で争う男たちがいて、その場所には必ず女もいるはずです。サッカーのような正しい形の戦いにも、間違った争いが忍び込みかねない。男がもつ、紙一重の闘争心を正しい方向に向けられるのは女だけなのかもしれません。

♪「ヘンケン」

くちなしが咲き乱れる
道路沿いの垣根に
頭を突っ込んでいる
おじさんがひとり
「何をもっていくの〜?」

ちょっと立ち止まって見ていたら
枯れ葉を取ってあげてお手入れ
「あら優しいのね。ごめんなさい」
この間垣根に咲くバラを取っていく
おばさんを見たせいよ〜

2009年 7月22日

くちびるにはなうたーvol.15 「就職」

みなさんお元気ですか?学生時代のアルバイトについて書いてきましたが、そろそろねたが尽きました。これからはサラリーマン時代のお話しをしようと思います。音楽大学でピアノを勉強していたものの、ピアニストになれるわけでもなく、自分の音楽をつくり込んでいたわけでもありませんので、卒業直前で職に就けないことに気づきました。両親に望まれていたのは茨城に帰って教員になること。人に何かを教えるなんて無理!と思っていたものの、出身校の日立一高で教育実習をして教員免許は取りました。両親を説得するだけのビジョンが何もなかったのです。音楽を一生続けたい、これ以外に口にするほどのこころざしがありませんでした。幼稚だったのです。それでも、「職に就かないのなら帰ってきなさい」と言われ、焦り始めました。卒業間近の2月、大学の就職課で求人案内を見ていると「まだ間に合う」就職案内が!ピアノやエレクトーンの楽譜を制作する会社。しかも一人で何とか暮らしていけるだけのお給料が明記されていました。「これしかない」。リクルートスーツなんて言葉も知りませんでした。明るい緑のツーピースでちょこんとおでこの上で髪を結び、就職試験に臨みました。そして4月から、まさかのサラリーマンになったのです。

♪「スピーカー」
じぶんより
おおきくて
まっくろな
スピーカー

みみだけで
うけとれない
おおおきな
おとのなみ

たまにこれが
すごくいい

 

2006年 7月30日

くちびるにはなうたーvol.16 「バーコード」

こんにちは。先週から、サラリーマン時代のお話しをしています。大学を卒業してすぐに就職した会社は、ピアノやエレクトーンの楽譜、月刊ピアノ、月刊エレクトーンなどの雑誌を編集する会社でした。私が就職した10年前くらいに、流通するCDや本に関して(それ以外の商品のことは分かりません)ある決まり事ができました。「バーコードを入れること」。本の裏表紙の上か下の、端から1cmのところに決まった大きさのバーコードを入れる、という規定ができたのです。表紙に色がついていても、バーコードの周りは白地にしなければいけません。それまでバーコードといえば、高校時代の部活(バレー部)の先生のあだ名でした。そんな思い出とは無関係に、その規定に則って、本の裏表紙を作り替える作業を繰り返しました。イラストレーターというデザインのソフトでバーコードを作成することができます。10桁程度の数値を入力するとあら不思議、ポンッとバーコードができあがるのです。それを画像として保存し、価格とISBNナンバーと一緒にレイアウトするのです。お手元の本を見れば一目瞭然です。この10年以内に出版された本には必ず入っているはずです。日々のバーコード責めで「これが楽譜づくりか・・・。」と途方に暮れたのは言うまでもありません。・・・つづく。

♪「窓のそと」
何度となく絵に描いたでしょう
窓から見える
カリンの木

春夏秋冬描いたでしょう
姿を変える
カリンの木

仕事をしながら目に見えた
唯一の季節
カリンの木

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